天神町は、松江市の旧市内の南側、西側の宍道湖が徒歩圏という位置にある。古くから天満宮の門前町として発達し、商店街には茶や和菓子の老舗があり、古都のイメージを持つ町である。しかし、昭和50年代後半から市街地のドーナツ化現象や郊外型大型店の進出で、衰退の一途をたどり始めたため、松江市と協力して活性化の取り組みを行うこととなった。具体的には「お年寄りに優しいまちづくり」というもの。
  島根県は、日本で一番の高齢者県である。しかも天神町のある白潟地区は65歳以上の高齢者率が29%で、独居世帯が150世帯もある。この日本一の高齢者地域が暗い顔をしていたのではしょうがないではないか。これからの日本のためにも、全国に先駆けてお年寄りがイキイキとしている、高齢者が住みよいモデル地区を天神町で作りたいという提案が浮上した。最初は少し戸惑いがあったものの、日本一の高齢化をプラスに取る「発想の転換」に感動し、その方向で天神町の活性化を推進することに決めた。

 これらの取り組みは、商店街関係者だけではなく、市・商工会議所、市民、その他を含めたパートナーシップによる推進体制をつくって進めている。
  さっそく、商店街の若手を集めたプロジェクトチーム「天神町街づくり委員会」を発足させ、毎週火曜日に早朝ミーティングを始めた。
  同時に、松江市・商工会議所TMO・天神町商店街役員による官民一体のコミュニケーション会議「ワーキング会議」も毎週金曜日に開始された。

 それらの会議や、おばあちゃんの原宿といわれる東京・巣鴨の「とげぬき地蔵商店街」などの視察を重ねる中で、「お年寄りに優しい街づくり」の三つの重要ポイントを取り出し、できるとこから実行していくことにした。
 その三つのポイントとは次のとおりである。

◆交流の場があること
 ◆信仰の対象があること
  ◆お年寄りが楽しみにショッピングができる街にすること

 一つめの交流の場については、病院の待合室にお年寄りが集うような溜り場を、商店街の一番目立つ大きな空き店舗を利用して設置することになった。
 そして、平成11年7月の天神夏祭りに、二つの施設「まめな館」「いっぷく亭」がオープンした。市の福祉課の施策として行われ、老人会や社会福祉協議会などからなるメンバーで運営することになった。

お年寄りたちの溜場「まめな館」

 二つめは、東京・巣鴨の「とげぬき地蔵」の視察から、お年寄りには信仰の対象が必要なこと、買い物というよりも墓参りや神社仏閣へのお参りの方が出かけやすいということを知った。幸い、天神町の唯一の信仰の対象である白潟天満宮の協力が得られ、天神さんの横に、お年寄りの神様「おかげ天神」を新しく建立した。天神さんは学問の神様、頭が冴える神様、つまり「ボケ封じの神様」というわけだ。

「おかげ天神」建立 神社境内で談笑するお年寄り

 三つめを具体化するには、やはり歩行者天国だということになり、天神さんの縁日(毎月25日)を歩行者天国にして、お年寄りを対象にした商品のワゴンセールや露天を始めた。
 農・漁協の産直市なども立ち、少なくて3,000人、多い日で1万人の人出があるという。

 市から提案があってここまで来るまで6ヵ月というスピードである。それは常に官民一体の意思統一と共同作業ができたことの結果だと、中村理事長は言う。
 さて、今年で7年めになるこの「天神市」だが、その間、さまざまな進化を遂げている。まず、来店客がお年寄りに限らず子供や家族連れが増えたことである。

 「天神市」の出店者も増え、また、平成12年には島根大学の法文学部のゼミがチャレンジショップを運営・体験する実験店舗をオープンさせ、それをきっかけに小中学校のフリーマーケットなど体験学習が参加するようになったことなどである。

露店が並び、買物を楽しむお年寄りなどで
にぎわう「天神市」
フリーマーケットで体験学習
 商店街の古くなったアーケードの建替えに併せて、歩道を広げ、電柱を取ってバリアフリーのアーケードを作ることになった。そこに大きな悩みが生じた。電柱の地中化工事はお客さんが買いものがしにくく、また工事が長期にわたるため売り上げががた落ちになり、商店街にとって死活問題となる。
 この問題を商店街の若手メンバーの会で検討したとき、面白い案が出てきた。アーケードの軒下にボックスを設けてそこに電線を通してはどうかという。地中化に比べ費用も十分の一だし、工期も短い。各方面に問い合わせたところ、可能だということになり、日本で初めての電線軒下化アーケードが実現した。

古いアーケードの天神町商店街 新しいアーケードに衣替えした天神町商店街

 お年寄りに優しいまちづくりの一環として7階建の再開発ビル「ウィステリア天神」が昨年8月に完成した。1階に医院、薬局などの店舗が入り、2階から上は高齢者向け優良賃貸住宅や市営住宅で構成。高齢者住宅には郊外の一戸建てから移ってきた人も多く、60歳以上の元気な人がほとんどだという。市営住宅には、若い人から高齢者までいるが、半分以上が20代で小さな子供の姿も多く見られる。
 また、「天神市」には授産施設の売店も出るが、その中の一つ(精神障害の施設)が、松江市内に作業施設を建設するに当たり、ぜひ天神町商店街にと土地を取得し、昨年7月にクッキー工場を兼ねたレストランをオープンした。
 これからは、障害者を社会復帰させるには、天神町商店街のようなところがいいということだ。
 天神町商店街のまちづくりは、少しづく輪を広げ、これからも進化を続けていきそうである。

再開発ビル「ウィステリア天神」 パン・クッキーの製造、
自然食レストランも運営する授産施設
天神町商店街理事長
(有)中村茶舗 代表取締役 中村寿男氏
 最初は「商店街」という単位で取り組み始めましたが、ここに来て市民の皆さんや大学生など、多くの方の参加によって充実した取り組みになりつつあります。昨今のまちづくり三法の考え方とも共通しますが、これからのまちづくりは、住民とともに「地域・まち」という単位で盛り上げていくことが重要だということに気づくことができました。今後とも、多くの住民の皆様とともにまちづくりの輪を広げながら取り組んでいきたいと考えています。
 
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