新潟県村上市は人口約3万人のまちで、古くから県北の城下町として栄え、瀬波温泉をはじめ、恵まれた自然と歴史が生み出した伝統・文化を誇る観光文化都市である。
 東には磐梯朝日国立公園を望み、西は白砂青松の日本海に面し、市の中心部には『母なる川・三面川』が静かに流れる。また、村上城跡のある臥牛山を中心とした旧武家町・商人町の町並みは、自然と歴史が調和した文化薫る風情を、今に残している。
 今回は、瀬波温泉などの観光地として栄えてきた背景を活かしつつ、城下町としての風情を残す中心市街地において歴史的資源を活かした取り組みを紹介する。
 村上の観光客は、瀬波温泉を中心に関連の観光施設に訪れており、本市の中心市街地の活気は盛り上がりに欠け、中にはシャッターを下ろす店舗なども見られるようになっていた。一方では、中心市街地に今でも残されている武家屋敷・城跡・町屋・寺町の街並みは、県下でも古い城下町として評価が高かった。

 しかし、平成9年、商店街には道路拡幅を含む大規模な近代化の話が持ち上がった。「まちをきれいに整備することが本当にこの町のためになるのだろうか。」と疑問に思う市民が現れた。近代化ではなくて古いものを活かして街の活性化を試み、村上の進むべき方向を見出していこうという気持ちの中で村上町屋商人会が結成された。

瀬波温泉の風景 商店街の風景
 村上町屋商人会では町屋の中を見せるという取り組みを始めた。外観はサッシ・トタン・アーケードで覆われている村上の町屋も店の一歩奥に進むとタイムスリップしたような古い空間が現れる。これが村上の財産だと気づいたところから、この町屋に光を当てる取り組みが開始された。また、町屋を紹介して町の中を楽しく歩ける観光マップ「村上絵図」を作成し、町屋の人とふれあいながら、まちを歩き回ってもらうようにした。その結果、中心市街地に訪れる人が増え、街に変化が現れ始めた。

町屋の中の様子
◆春の「町屋の人形さま巡り」と秋の「町屋の屏風まつり」
  さらに町屋に光を当てようと、町屋の中に、その家に伝わる雛人形をはじめ武者人形、土人形などの人形さま、家伝の屏風を展示する企画を始めた。60軒もの町屋で生活空間に飾られた家伝の人形さまを無料で見学してもらう取り組みであり、人形さま巡りは初回から三万人以上が訪れた。

人形さま巡り
屏風祭り 観光客との交流風景
 村上町屋商人会による「町屋の中」にスポットを当てた取り組みは、城下町の商人たちの心意気が成したものであり、(協)新潟県異業種交流センター主催の第9回地域活性化大賞(2000年)を、「人形さま巡り」が地域活性化大賞10周年記念「ベストオブベスト賞」を受賞するなど、関係者や市民の間でも高い評価を受けることとなった。そのような中で、「市民が自らの心意気で・・・」という機運が少しずつ盛り上がり、2002年から市民有志による新たな取り組みへと広がっていった。

@「黒塀プロジェクト」
 村上旧町人町にある安善小路とその周辺を市民の手で城下町らしい昔ながらの黒板塀の景観に戻そうという思いから、市民自ら平成14年早春「黒塀プロジェクト」を開始した。これは、城下町の風情ある小路のブロック塀を昔ながらの黒塀に変えるプロジェクトである。既存ブロック塀を壊さず、その上に木の板を打ちつけ黒く塗ることで、表向き黒塀に変えるもので「黒塀一枚1000円運動」と銘打って資金をつくり、市民の手作りで黒塀作りを始めた。簡易工法ではあるが、ブロック塀を黒塀に変えるだけで町の景観を変えることができる。平成17年には約160mの黒塀が作られ、現在も延長中である。また「安善小路と周辺地区の景観に関する住民協定」が締結され、電線の地中化や道路の石畳化を目指して活動が行なわれている。

黒塀プロジェクトの様子
ブロック塀の風景 黒塀の風景
A「町屋の外観再生プロジェクト
 サッシやトタン、アーケードなどで近代化された町屋の外観を、格子窓や下見板などの木の外壁、木製のガラス戸などの昔ながらの町屋の形に再生することにより風格のある町並みを作るプロジェクトであり、全国に呼びかけ基金を作り、外観再生のための市民基金をつくって外観を再生する店などに80万円の補助金を出すという全国初の取り組みである。

再生前の店舗 再生後の店舗
◆村上大工 匠の会の結成
  村上の大工は古くから「村上大工」と呼ばれ、技術の高さを他県にまで轟かせていた。この事業を行うことにより伝統の技を活かせる機会を作り出す。これを実行する「村上大工 匠の会」をつくり、町屋再生を実際に行ってもらう。
村上町屋商人会会長
有限会社「きっかわ」 吉川真嗣氏
 行政が何をしてくれるのかを期待するのではなく、我々市民が町のために何ができるのかを考えていくべき時代になったと思う。自分たちの町は自分たちに責任があるのである。子や孫に恥じることのない、活気があり、誇りのもてる町をつくっていかなければならないと思っている。
 
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