日本海側の中央、京都府北部に位置する舞鶴市は、人口約93,000人。明治、大正時代の旧海軍の「赤れんが倉庫群」や「引揚」で有名なまちです。
 今回紹介する加佐地域は、農山村地域で、住民は5,000人余。海、山、川など豊かな自然に恵まれてはいますが、高齢化率40%に迫る急激な少子高齢化、人口減少による過疎などが進み、地域の存続に対する危機感が強まっています。
  地域のいろいろな課題に対して、平成10年頃から、地元住民による村おこしに向けた取り組みが始まりました。京都府立大学との連携や「棚田オーナー制度」、「空家バンク」等による新規就農者の受け入れなど、都市との交流や定住促進などに一定成果をあげてきました。

加佐地域の風景

 加佐地域には、江戸時代の大庄屋「上野家」の茅葺屋敷があります。
 それが昭和60年頃からは無人の状態となって、雨漏りなど老朽化が激しくなり、取り壊しの危機に。約170年間、地域に息づいてきた茅葺の大庄屋屋敷。単なる歴史遺産としてだけでなく、ここには昭和の時代まで盆踊りや相撲大会など地域のコミュニティの場として人々が集った多くの想い出があります。
 この貴重な地域の財産をなんとか守りたい――研究者を招いての話し合い、真夏の炎天下に実施した有志による草刈りや屋根の補修など――屋敷の保存に向けての活動が盛り上がり、市に相談したことから再生への道が広がりました。

再生された上野家

 
 地元の声を受け、市は地域づくりの交流拠点施設として保存再生を決定。しかしこれで終わりというわけではありません。建物の保存整備は市が行いますが、再生以後の管理や活用は経費も含め、地域で自立して行うこととしました。
 先人が残してくれた地域の財産(資源)をいかに活用できるか。歴史、文化、自然、農産物……まずは、地域の宝探しから。
 地域で公募した企画メンバー(平均年齢60代前半!!)を中心に、市の担当者、大学、また、植物や料理の専門家など多くの人の輪を広げながら、元気な村づくりのため、試行錯誤を繰り返しました。
 特産品の開発にも取り組み、地元米こしひかり100%を使って焼き上げた「お米パン」、お茶、地酒、ピーナツせんべい、甘夏ジャムなど安心・安全にこだわった地場産品を商品化。特に、お米パンは、もちもちとした食感が好評で連日売り切れるほどに。地元小学校の給食にも「食育」として取り入れられています。

お米パンを商品化し大好評

 
 おばさんやおじさんたちが取り組むコミュニティビジネス。特産品のほかにも地元の食材を使った農家料理を食べてもらおうと準備をはじめました。どういった食材で、どんな料理が喜ばれるか。手間はかかりましたが、たくさんの人に地域の良さを伝えたい。そんな想いでした。
  そんな時、平成16年10月20日台風23号が襲来。未曾有の大災害となり、地域の多くが水没し、土砂崩れも各所で起き、尊い命も失われました。
  とまるかに見えた地域づくりへの取り組み。しかし、徐々に生活が落ち着くとたくましく活動が再開されました。

 また、市の整備計画にはなかった上野家の庭園を、地域に縁のある京都造形芸術大学仲教授の協力を得て、地域住民の手で復元することに。手弁当による何度かの作業の結果、当時の様相が明らかになりました。
 さらに、地域づくりの拠点施設を活用するため、地元住民が中心となったNPO法人「KYO・ふるさと加佐」が設立されました。

住民による庭園の復元作業
復元された書院庭園
 
 長くて短かった2年足らずの準備期間を経て、平成17年5月29日、台風の影響で2ヶ月遅れの再生オープンの日を迎えました。
 国の有形登録文化財に指定された茅葺の母屋は、座敷、囲炉裏、おくどさんなど当時のままに農家レストランとして。長屋は、梁など当時の面影を残して、特産品などの販売所や「お米パン」の工房、展示室などに、蔵のひとつは便所に生まれ変わりました。
 ただ、見学してもらうだけでなく、訪れる人が体験できたりゆったりとした時間が過ごせる癒しの場所にしたい地元の想いが活かされています。
 地域づくりの拠点として、また都市と農村交流の場として、平成18年11月現在で、市内外から約1万5千人の来場者を迎えています。

村祭りのイメージでのオープニング

 
 地域づくりに、終幕はありません。子どもたちが大人になった時、ふるさとはどうなっているのか。
 これからも、ひとつひとつ手間ひまかけながら先人から引き継いだ地域が日本一住みやすく、また他の地域の人も住みたい行ってみたい「日本のふるさと」になって次の世代に引き継ぎたい。それが地域の願い。

「食育」としてお米パンを給食に

 

農家レストラン(おもてなし部)

森下 房枝
 屋敷に残る大庄屋の漆器に、地元の四季折々の新鮮な食材を使った料理を盛ってお出ししています。はじめは、田舎料理が喜ばれるか、どうか不安でしたが、遠くからも予約が入るようになりました。壱の膳・弐の膳がついて2,000円(予約制)です。そば打ちもできます。料理だけでなく、地元の“おばさん”たちがいろいろと気さくに話すのも喜んでもらっているようです。「懐かしい」「おいしかった」の言葉を励みにやっています。

NPO法人KYO・ふるさと加佐

理事長 弓削 寿
 法人名は、地域の全小・中学校のアンケートで決めました。元気な村づくりを引き継いでくれるのは、子供たちですから。
  地域づくりにも今日まで、実に多くの人々との出会いがありました。上野家を通した活動で、地域資源だけでなく、これらのみなさんとの縁も地域にとっての宝物となりました。全てが順調とはいきませんが、これからも、ひとつひとつ手間ひまをかけながら、地域で協力し合い、前向きに取り組めたらと考えています。

上野家パン工房

 地元米のこしひかりにこだわった米粉で焼いた『お米パン』を作っています。具材も、地元の小豆や紫いもを煮て手づくりあんを使うなどこだわっています。女性ばかりで、朝5時から焼き上げています。はじめは、何も分からず、失敗も多くて大変でした。勉強を重ねて、ここまで来ました。もちもちした食感が好評で、午前中に売り切れることも多くなりました。
  米粉パンは、他府県でも作ってますけど、「上野家のお米パンが一番うまい!」という自信をもっています。

大庄屋上野家のご案内

【農家レストラン】(前日までに要予約)
  壱の膳・弐の膳付き   2,000円
  そば打ち体験    1人2,000円
【特産品の販売】
  お米パン(こしひかりで焼き上げてます)
  地酒「彌一郎」(米の味わい深い純米酒)
  ピーナツせんべい、奈良漬、お茶、ジャム 
  朝ぼり野菜、地鶏卵の直販    など
【交通】   
  車 … 舞鶴大江ICから約5分
  JR … 西舞鶴下車 
【開館時間】
  10:00 〜 16:00
【休館日】
  毎週水曜日・年末年始

〒624-0118 京都府舞鶴市字西方寺285
TEL・FAX 0773−83−1300

おもてなし
パン工房
▲とびっきりの地元産品に推奨
 
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