日本や世界の多くの都市は、古来より海や川を交通手段として用いて発展してきた。福岡のまちも古くから博多湾を中心に人々の暮らしが水上交通によって発展してきたが、モータリゼーションの進展、治水・利水政策上の河川水面利用の制約等により、水上交通は短期間であっという間に衰退した。しかし近年、モータリゼーションの進展による自動車交通の増加が、交通渋滞や環境問題などまちづくりの大変大きな課題を引き起こして、その対策の一つとして水上交通の見直し機運が芽生えつつある。
NPO法人タウン・コンパスは、利便性の高い水上交通の導入・実現が、渋滞緩和や都市環境の改善、地震時の緊急輸送手段の確保などに加え、地域の観光資源の魅力を高め国内外の人々との交流を活発にさせること、あるいはこれまでの都市づくりの結果として築かれた市民と水辺空間との心理的・空間的な壁を取り除き、水辺の魅力を生かしたまちづくりに展開していくこと等を期待して、“川と海をつなぐ都市水上交通社会実験”を提案・実施した。
博多湾には、市内中心部とその対岸に位置する志賀島・西戸崎や海の中道とを結ぶ航路があるが、都心側の発着地点となる博多区博多ふ頭は、天神や博多駅といった都心とはさらに2km以上離れている。このため、埠頭との行き来にはバスやタクシーに乗り継ぐ必要があり、利便性が非常に悪い。
一方、都心の天神を流れる那珂川では、大雨時の流下能力を増やすために、平成16年度より河口から天神そばまでの河床掘削事業が始まっている。近い将来、この事業が完了した暁には、干潮時でも船舶が航行できるようになり、都心から直接、河川と博多湾をつなぐ水上交通の定期運航の道が開かれる。その結果、都心部と博多湾沿岸地区を直接結ぶ水上交通の利便性は飛躍的に高まり、陸上交通を補完する都市交通手段として道路交通の渋滞緩和や環境改善等に寄与することが期待できる。あるいは都心と海沿い・川沿いの観光・商業施設をつなぐ来街者の移動手段として、さらには船自体が水上からの景観を楽しむ新しい観光資源となること等により、地域の観光振興に大きな貢献をすることなどが期待される。
本社会実験は、そうした将来の展開を念頭におき、まずは干潮時の水深や満潮時の橋梁下クリアランスといった現在の厳しい制約条件の下で、天神から那珂川を経由して博多湾をつなぐ航路の運行計画を策定し、実際に船を就航させて、市民の評価を含む効果や可能性を探るためのものである。実験は、(財)日本財団の2カ年(平成17,18年度)にわたる助成に加え、社団法人や地元一般企業等の資金援助等を受けて、実施した。
那珂川(天神)
海の中道海浜公園
本実験では、住宅開発の進展により今後人口が増えると思われる西戸崎の通勤通学客、および夏季のレジャー客が多い海の中道海浜公園の利用者を対象として、天神〜西戸崎航路、天神〜海の中道の間の定期運航を行った。
しかし、天神の水上公園発着場が感潮区間であるため、干潮付近で喫水深が確保できる潮位と満潮付近で船の頂部が橋桁に触らない潮位の間の限られた範囲の運航を余儀なくされた。
那珂川運航
海の中道桟橋
橋梁通過
この実験は、平成17、18年度の2年間にわたり7月下旬から8月初旬にかけて実施し、新聞、テレビ、ラジオ、雑誌など多くのメディアにも取り上げられ、水上交通に多くの市民の関心を呼んだ。
運航実績については、船の定員が24人で、天神〜西戸崎航路では、平成17年度は39便運航し、利用者は145人で1便当たり約4人と少なかった。これは、博多ふ頭航路の利用者の多くが定期券客であるためだった。したがって、平成18年は天神〜西戸崎航路は中止して、天神〜海の中道航路の中で西戸崎経由とした。
天神〜海の中道航路では、平成17年度は59便運航し、利用者は523人で1便当たり約9人、平成18年度は67便運航し、利用者は646人で1便当たり約10人だった。
また、平成18年の7月29、30日には海の中道公園でコンサートが開かれたため、コンサート終了後に合わせて1便運航しほぼ満員だった。
平成18年には、遊覧時間2時間程度の団体専用の博多湾夜間遊覧を6回運航し、利用者は94人で1便当たり約16人だった。博多湾遊覧は、気の合う仲間同士のパーティー、船上会議、海上からの花火大会見物などで非常に好評だった。
博多湾遊覧
・
天神〜西戸崎間の実験船利用者は非常に少数だった。西戸崎地区は現在住宅開発が進んでおり、将来生活航路利用者が増える可能性もあるが、安くておいしい地魚料理を提供するなどまちの魅力を高めて都心部からのお客を呼び込む努力が必要である。
・
海の中道〜天神水上公園の航路はマリンワールド水族館、海の中道海浜公園サンシャインプール、海の中道ホテル等のお客が主で、乗船者にそれぞれの施設利用料金の割引特典を付与したこともあって好評だった。市民に定期航路としての期待がある。
・
船内でくつろいだり、海上から花火を見たり、博多湾遊覧は非常に好評だった。
・
船に乗った経験の無い人が多いにもかかわらず、天神を拠点とする水上交通に対して交通渋滞緩和や観光振興などに大きな期待があることが分かった。 また、志賀島、能古島、キャナルシティ、及びマリノアなど観光レジャー施設への航路に対しても強い期待がある。
・
移動距離約8km、移動時間30分に対して、料金500円という設定は概ね理解された。
・
那珂川やその河口周辺の水辺ではくつろぐ人が少なく、水際が交流空間としてまったく機能していないので、これから市民が親しむことができる水辺空間を作ることが必要である。
・
橋梁のデザインに統一性が無く、かつ新しく建設された橋梁はフラットに近く道路としての機能を重視しすぎているように思える。形式を少しアーチタイプにすれば景観もよくなり、舟運の条件も緩和されることから、今後橋梁の架け替えについては景観への配慮も必要である。
景観に配慮した那珂川西大橋
・
平成16年度から洪水対策として那珂川の河床掘削が始まっており、平成22年頃には春吉橋までの河床掘削が完了すると考えられ、その後は常時運航が可能になる。NPO法人タウン・コンパスではそれまでの間に「川と海をつなぐ都市水上交通」の事業提案を行う予定である。
・
まちづくりと水上交通の相乗効果の把握、観光の新規航路の開発、生活航路としての定期便の事業手法、船舶用資金の調達、事業採算性、官民の役割分担などについて、今後事業の実現に向け検討する。
・
平成18年度は別の団体が天神水上公園と那珂川上流の美野島地区との間で市内幹線道路の渋滞緩和対策としての河川交通社会実験をNPO法人タウン・コンパスの社会実験と同じ期間に実施し、多くの利用者に好評だった。これらの社会実験が連携することで都市水上交通システムの広がりが期待されるため、今後もこの河川交通社会実験と協力していく。
河川交通社会実験
消費者サービスを考えるNPO法人ベターマーク(博多湾遊覧を体験して)
・
クルーズと通勤とは分けて考えたほうがよいと思う。
・
通勤目的での運行を考えた場合、現在、学生は安価で(エコルカード)バスを利用できるので利用料金の設定が難しい問題になると思う。
・
通勤としてだけでなく、レジャーの足としての考えるのが良いのではないか。例えば、マリゾンやマリノアシティや能古島に寄り、観光や買い物、レジャーを楽しめるなど。
・
クルーズの方法だが、船内ではなく、寄港したところで飲食を楽しみ、また、観光やレジャーを楽しんだあとまた乗船して夜景を楽しむ方法はどうだろうか。これによって、港だけでなくその周囲の地域の活性化にも繋がるのではないか。また、そこそこに“ここだけにしかない!”などの魅力が必要だと思う。
・
レジャーの足として考えた場合、バスに対抗しての利用料金の設定は難しいと思われるので、上の意見のように観光やレジャー施設と料金のタイアップの必要があると考える。
・
現在、不便を感じている人はあまりいないと思われるので、この水上交通には多くの魅力づけが必要だと思う。
この実験に参加して感じたことは、福岡市民が如何に水辺空間に親しんでいないかということへの驚きと、観光資源としての高い可能性である。本実験船の利用者は、那珂川から見る天神や中洲の景色や、博多湾から眺める街の夜景の美しさに感激していた。水辺から見る街の景色は時間によって、天気によって、季節によって変化するので、車や電車では感じられない非日常性にほとんどの利用者が感激してくれたと思う。これからもタウン・コンパスの活動を通じて、博多の魅力的なまちづくりに貢献していきたいと考えている。
財団法人 都市みらい推進機構
〒112-0013 東京都文京区音羽2-2-2 アベニュー音羽ビル3F
TEL.03-5976-5860 FAX.03-5976-5858
メールはこちら